福岡商業施設女性刺殺事件の犯人の生い立ち|虐待が少年を追い詰めたのか

2020年8月、福岡市の商業施設で21歳の女性が当時15歳の少年に刺殺されるという痛ましい事件が発生しました。

この凶行の背景には、少年が生まれながらにして置かれた、想像を絶するほどの過酷な家庭環境と壮絶な生い立ちがありました。

なぜ彼は、取り返しのつかない罪を犯すに至ったのでしょうか。

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目次

福岡商業施設女性刺殺事件の犯人|その壮絶な生い立ち

事件を起こした元少年Xの人生は、物心ついた頃から虐待と育児放棄に満ちたものでした。

彼が育った環境は、心身の健全な発達を根本から阻害する異常な要因に満ちており、その歪みが社会を震撼させる深刻な事件へとつながっていきます。

人格形成の最も重要な時期に、彼がどのような環境に置かれ、誰からも適切な保護を受けられずにいたのかを詳しく紐解いていきます。

幼少期から始まった虐待と異常な家庭環境

Xは、鹿児島県の人口300人ほどの小さな集落で、3人兄弟の末っ子として生まれました。

しかし、彼を待っていたのは、子供が安心して育つことのできる安らげる家庭ではありませんでした。

彼の異常性は幼少期から明らかで、3歳児健診の時点で既に注意散漫、多動、粗暴性が指摘されています。

保育所に入るとその問題行動はさらにエスカレートし、他の園児に噛みついたり、職員に暴力を振るったりすることが日常化。

感情のコントロールができずに癇癪を起こして大暴れし、その結果、保育士が骨折したという衝撃的な報告さえあります。

その暴力性の根源には、凄惨というほかない家庭環境がありました。

  • 精神的に不安定な家族

    Xの家族や親族には精神的に不安定な者が多かったとされ、特に母親にはXと同様に発達障害の傾向がありました。

    父方の祖父は、後の証言で「Xよりも母親の方が障害の程度が深刻だった」と語っており、母親自身も適切な養育が困難な状態であったことがうかがえます。
  • 育児放棄(ネグレクト)

    母親による育児放棄は慢性的でした。

    日常的に子供たちに食事を与えず、空腹を訴えるXに対し「何起こしてんだクソガキが、ぶっ殺すぞお前」と叫びながら包丁を振り回すこともあったとされています。

    小学校の担任も、家庭訪問の記録に「母親は長女には関わるが、他の2人の兄弟には薄弱」と記しており、Xが母親から愛情や関心をほとんど向けられていなかったことが分かります。
  • 心理的・性的虐待

    家庭内では日常的に「死ね」「死ねばいい」といった暴言が飛び交う心理的虐待が行われていました。

    さらに異常なのは、両親が子供たちの目の前で平然と性交を行ったり、兄弟がまだ未就学児の頃からアダルトコンテンツを買い与えたり、性的行為や性交渉を強要したりするなどの慢性的な性的虐待です。

    精神科病院に入院中のXにアダルト雑誌を差し入れようとし、それを咎めた精神科医に対し、母親が「うちは性にオープンな家庭だから」と説明したというエピソードは、その家庭の歪んだ倫理観を象徴しています。
  • 連鎖する身体的暴力:

    父親も家事育児を放棄し、母親や兄に対して激しい身体的暴力を振るっていました。

    そして、4歳年上の兄もまた、父親から受けた暴力のストレスを最も弱い存在であるXにぶつけます。

    殴る、蹴る、モノで殴打する、エアガンで顔面を撃つ、首を絞めるといった虐待に加え、Xが8歳から10歳の頃には、兄から性器や肛門を舐めさせられるといった性的虐待も受けていました。

驚くべきことに、近隣に住む祖父母や親族は、Xたちが暴力を受け、食事を与えられずにお腹を空かせている惨状を知りながら、見て見ぬふりをしていました。

保育園や学校側も家庭環境に深刻な問題があることを認識しつつも、踏み込んだ介入をすることなく放置。

彼には逃げ場も、助けを求める先も、どこにもなかったのです。

施設を転々とし、社会から孤立していく日々

2012年に小学校に入学してからもXの粗暴性は改善されることなく、他の児童の首を絞めたり、教諭に「殺すぞ」と暴言を吐いたりといった問題行動を毎日のように繰り返しました。

さらに、小学1~2年生の頃には陰毛が生えるなど、虐待による過度なストレスが原因とみられる異常な身体的発達も見られ、人目を気にせず日に何度も自慰行為をするようになります。

2014年、父親の不倫がきっかけで両親が別居すると、家庭の庇護を完全に失ったXの他者への暴力はさらに悪化。

小学5年生の時には兄との喧嘩で包丁を持ち出すという深刻なトラブルを起こし、この一件を機に、精神科病院や養護施設、児童自立支援施設などを長期間にわたって転々とすることになります。

しかし、これらの施設では、Xが抱える発達障害の特性に合った専門的な教育や、凄惨な虐待によって深く刻まれた心の傷(トラウマ)に対する治療はほとんど行われませんでした。

彼の暴力性は職員に向けられ、社会との溝は深まり、孤立は決定的となっていきます。

2017年に両親の離婚が成立。

翌年、国立の治療施設に入所しますが、ここでも暴力行為や無断外出を繰り返し、ついには強化ガラスを消火器で破壊しようとしたことで鑑別所に送致されます。

そして2019年、14歳で少年院に送られることになったのです。

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事件への連鎖|母親の拒絶が引き金に

約10ヶ月の少年院での生活を経て、Xは中学3年の夏に仮退院することが決まります。

当初、母親が身元引受人になる予定でした。

母親と再び暮らせることに、Xは喜び、更生への希望を抱いていたとされています。

しかし、その最後の希望は、最も信頼を求めていたはずの母親自身の手によって無惨に打ち砕かれます。

仮退院の直前になって、母親が「金銭的な理由」を挙げ、Xの身元引き受けを拒否したのです。

生まれてからずっと拒絶され続けてきた人生の果てに、ようやく掴みかけたはずの母親との生活。

その希望を絶たれたことは、彼の心に計り知れない打撃を与えました。

「自分のことを切り捨てた母親」に対し、強い反発心と殺意にも似た憎しみを抱き、完全に自暴自棄に陥っていったとされています。

2020年8月28日、少年院を仮退院したXは福岡県内の更生保護施設に入所しますが、わずか1日で施設を脱走。

そして、福岡市の商業施設で、何の落ち度もない21歳の女性の命を奪うという凶行に及びました。

刑事裁判の法廷で、Xは犯行時の心境について、被害者の女性に

こんなことしても何にもならないよ

と自首を勧められた際、

母親の姿と重なって怒ってしまった

「(身元引き受けを断られ)期待した気持ちが強かったので、その気持ちが重なった

と供述しています。

彼の怒りの矛先は、本来向かうべきだった母親から、偶然その場に居合わせた無関係の被害者に投影されたのです。

この事件の背景にある根深い問題をめぐっては、現在も民事裁判で争いが続いています。

被害者遺族は加害者であるXだけでなく、母親に対しても「人格形成の時期に虐待と育児放棄を続けた親に監督責任がないのはおかしい」として損害賠償を求めました。

しかし、一審の福岡地裁は「監督義務違反は認められない」として母親への請求を棄却。

遺族側はこれを不服として控訴しており、司法が親の責任をどう判断するのかが、今後の大きな焦点となっています。

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裁判の行方

民事裁判

2025年9月12日、福岡高裁で控訴審が始まりました。

刑事裁判の判決

2022年7月25日、福岡地方裁判所は、殺人などの罪に問われた元少年に対し、

懲役10年以上15年以下の不定期刑

の判決を言い渡しました。

これは検察側の求刑通りの判決で、その後、控訴されなかったため確定しています

裁判所は、犯行の凶悪性や残虐性を指摘し、「更生の可能性が高いとは見ることが困難で、保護処分とするのは社会的に許容しがたい」として、少年院送致ではなく刑事処分が相当と判断しました。

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まとめ:福岡商業施設女性刺殺事件の犯人の壮絶な生い立ち

最後に、この「福岡商業施設女性刺殺事件」と犯人の生い立ちについて、要点をまとめます。

  • 事件の犯人である元少年は、幼少期から両親や兄から壮絶な虐待(育児放棄、身体的・心理的・性的虐待)を受けて育ちました。
  • 家庭環境の異常性を周囲に認識されながらも、行政や学校などからの適切な介入はなく、長年にわたり放置されていました。
  • 精神科病院や養護施設を転々としましたが、虐待によるトラウマの専門的な治療が行われず、社会から孤立を深めていきました。
  • 少年院からの仮退院直前、唯一の希望であった母親から身元引き受けを拒否されたことが、自暴自棄となり事件を起こす直接的な引き金となりました。
  • 事件の根底には、一個人の資質の問題だけでなく、虐待が子供の人格に与える破壊的な影響と、彼を救うことができなかった社会的なサポートシステムの欠如という深刻な問題が存在しています。

民事裁判の行方を見守りたいと思います。

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